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アナザーゼロ 6

「そういや、アンタが聞きたいことって何よ」
「えーと、刈谷陽菜っていう子について、ちょっと調べたかったんですけど」
「その子が行方不明なの?」
「はい。四日前の夜に家を出たきり、帰ってこないらしくて」
「へぇ」
「それでその子がよく行ってたのが、さっきの『ZERO』っていうクラブだったみたいです」
「ちょっと待ちなさい」

茜は真面目な顔になると、法介のほうへ身を乗り出した。

「ちか、近いです茜さん!」
「我慢しなさい、男でしょ! その子、家に問題は?」
「思い当たる節はないって、母親は言ってましたけど」
「まずいわね……」

深刻な面持ちで、茜は目を瞑る。

「やっぱりまずい、ですかね」
「なんでそこで同じ結論に至れるのに、情報交換したことについては疎いのか、理解に苦しむね」

今までずっと黙り込んでいた響也が急に話に割り込んできたことに驚き、法介はびくりと身体を揺らす。
茜もまた、小さく息を吸い込み、目を見開いていた。

「どう考えても、揃いすぎてるね」

名称と、場所と、年齢と。
指折り数えていく響也の言葉に、茜は弾かれたように立ち上がった。

「手配するように言ってくるわ」
「刑事クン、ちょっと待った」
「何よ!」

噛み付きそうな声を出した茜に、響也は淡々と言葉を紡いだ。

「まだ予測の範疇を出ていないだろう?」
「だけどッ……!」
「いきなり踏み込んでも、黒幕を捕まえられるとも限らない。潜入捜査が一番じゃないかと、ぼくは思うけど」
「それもそう、ね……」
「あー……ちょっと、すみません」

おずおずと法介が口を挟むと、響也はひどく優しい目をして「おデコくん、どうぞ」と言った。

「潜入捜査は、難しいかもしれません」
「何でよ!」
「どうも『ZERO』って店は、年齢制限があるみたいで」

どう頑張っても中年以降にしか見えない客は、門前払いを食らうという話を聞いて、茜は落胆の息を漏らす。

「まいったわねぇ……。うちの班、あたしが最年少よ」
「そもそも刑事は強面が多いからねぇ。若くても中年に見える人のほうが多いんじゃないの」

さらりと酷なことを口にする響也の言葉に、茜の口がひくひくと痙攣した。

「ちょっ」
「俺、今日その店に行ってみようと思ってるんです」

茜の口から罵声が発せられようとしたその瞬間、法介の発言によって響也と茜が、正しく固まった。

「あの……?」
「何考えてんのよアンタ!」
「そうだよ! わざわざキミが危険なところに行こうとしなくたって、刑事クンとか刑事クンが頑張ってくれるに決まってるだろう!」

両側から浴びせられる怒鳴り声を、法介はしっかりと受け止め、けれど決意を滲ませた声音でそれを遮った。

「でも、俺の仕事でもあるんです」
「アンタの気持ちはわからなくないわよ? でもここまで危険要素の高いことを、無理にしなくたってあたしたちがやるわよ」

それこそ、あたしの仕事なんだから。
茜の言葉にゆっくりと首を振ると、法介は口を開く。

「少し様子を見てくるだけです。無茶なことなんてやらないし、やろうとも思わない。何が行われているのか、見てくるだけですから、俺は今日行きます。……『ZERO』に」
「おデコくんの意思は、堅そうだね」
「はい」

はっきりとした法介の返事に、響也は少し逡巡すると、茜のほうへ身体を向けた。

「刑事クン、説得は無理っぽいよ?」
「……っとに馬鹿なんだから」

そう呟いた茜は、法介を出来の悪い弟を見るような目つきで見つめた。

「でも心配は心配だから……ぼくも行くよ」
「「ハァッ!?」」

茜と法介の息が、これ以上ないほどぴったりと重なった瞬間だった。

「あああ、アンタこそ何考えてんのよ!」
「そ、そうですよ!牙琉検事はそれこそ無関係じゃないですかっ!」
「キミが心配だから、行く」

熱誠のこもった視線に、法介はたじろぐ。

「止めても無駄だからね」
「……馬鹿が二人いるわ」
「……目立たないようにしてくださいよ?」

三人三様の思いが、他に利用者のいないカフェテリアに渦巻いていた。

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